私が、初めて大雪山系に入ったのは、高校三年生の夏である。然したる理由があったわけではなく、単に北海道の最高峰という、単純な理由であった。
しかし、この四泊五日の山旅で大雪山系に魅せられた。その中で特に心に残ったのは、化雲岳周辺の高山植物の大群落と、白雲岳から眺めた朝焼けのトムラウシ山の姿である。 少し早計の誘りは免れないが、私は、この体験だけで、将来この大雪山系を写真集にまとめたいと願うようになり、時間を見つけては山に通うようになった。月日が経つのは早いもので、あの日から六十数年が過ぎた。
そんなある日、小泉岳・白雲岳周辺で、一万数千年前に縄文の人々が使用した黒曜石などの石鉄が発見されたという報道を目にした。当時、大雪山はまだ登山道もなく、そんな中彼等はどのような方法で山を登り、どのような思いで!と考えると、言葉に出来ないような感慨が湧く。その心の高まりが少しずつ膨らみ、この山系の景観を縄文の人々の心に馳せ写真として表現したいと願うようになった。
当時、縄文人にとって、黒曜石は宝の石と称されるほど貴重な存在であった。その日本最大級の産物が大雪山と数十kmという近い位置にあったのである。これは驚きであった。